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杉並時間を読みながらコーヒーはいかがですか?
CITY

告白をした時と同じくらい、 あるいはそれ以上に別れ話をするのは緊張する。
きちんと面と向かって話そうと思い、 わたしは彼をCITYに呼び出した。
ここはいつもマスターがセレクトした音楽が流れているから、 無音では話しにくい内容を伝えるにはちょうど良かった。

わたしはブラックコーヒーが苦手だ。 理由は苦いから。
だから大人になっても喫茶店ではいつもカフェオレを注文して砂糖を二杯入れていたけれど、 今日はマンデリンをブラックで頼んだ。
これから慣れない話をするから早めにいつもと違う状況に身を置いておきたかったのかもしれない。

いつも通り彼は五分遅れてやって来て、ドリンクだけのわたしをよそにアイスコーヒーとサンドイッチを頼んだ。
サンドイッチを頼むということはきっと振られるなんて思っていないからで、 ますます話を切り出せなくなる。
「どうしたの、難しい顔して」
「なんでもない」
笑いながら「そう」と答えただけで、彼はわたしがブラックコーヒーを飲んでいることを気にも留めていないようだった。
いつからだろう、お互いの変化に鈍感になってしまったのは。
きっとわたしも彼の小さな変化をいくつも見逃しているのだろう。
TelevisionのMarquee Moonが流れている。自分のことを自分以上に知っているはずの恋人は、わたしが別れの言葉を発した途端に月よりも遠い星の人になってしまう気がした。
「ひと口食べる?」
この曲が終わるまでに別れ話をしなくては。そう思いながら、差し出されたサンドイッチに思い切り齧り付いた。
ライター:中神 円
店名 | CITY |
住所 | 杉並区高円寺南3-49-12 |
電話番号 | 03 -3314 -7166 |
営業時間 | 15:00~21:00(土曜、日曜 12:00~21:00) |
休業日 | 木曜 |